日本を「もっと来やすい国」に。国際交流を支えるTシャツの物語

もし、街で困っている外国の人を見かけたら、あなたはどうしますか?

 

シャイな日本人は、英会話ができるかどうかにかかわらず、「助けてあげたいのに、声をかける勇気が出ない」と、ためらってしまうことが多いかもしれません。

 

東京の観光地で“Lost in Translation? I CAN HELP! ”のロゴ入り「おもてなしTシャツ」を着て、困っている外国の人たちに声をかけるボランティア団体「Hosptali-Tee Project」があります。千葉県の麗澤大学が主催し、2014年から活動を開始。民間レベルでの国際交流を目的に定期的に活動を続けています。合言葉は「日本をもっと訪問しやすい国にしよう!」です。

外国人観光客が「この人は英語ができる」と判断できるシステムがあれば、との思いから誕生した「おもてなしTシャツ」。その背中には“NEED HELP?”と書かれています。参加者の多くは麗澤大学在籍の学生さん。

 

「このTシャツを着ると、今日は声をかけるぞ!という気持ちになる」「『デザインが可愛いね』と向こうから声をかけられた」「Tシャツに気持ちを後押ししてもらえる」と好評で、目立つデザインのTシャツに愛着を抱いている様子が伝わってきます。

 

今回は、団体の中心人物である田中俊弘教授に取材しました。

Tシャツを活用し、個人レベルでの国際交流の促進を狙う

―― 「Hosptali-Tee Project」の活動内容を教えてください。

 

東京の観光地である浅草や上野で外国からの旅行者に声をかけて、道案内や写真撮影などを行っています。活動当初は声をかけてもらう方が多かったのですが、最近はこちらから積極的に声をかけていますね。

 

―― どうして声をかけられるようになったのでしょう?

 

やっぱり最初は慣れていないせいもあって、知らない人に声をかけづらかったようです。それが向こうから声をかけられ、実際に話をして喜んでもらう体験をすると、だんだん勇気が出るようになっていきました。

 

英語に自信がなかった学生たちも、実践を積み、相手の反応から手応えを感じるようなり、それもモチベーションにつながっているようです。もう11回活動していますが、回を重ねる度に学生たちも率先して声をかけられるようになっています。

 

―― 「Hosptali-Tee Project」の誕生のいきさつを教えてください。

 

この活動は学園のOBさんから声をかけられたのがきっかけです。「外国人観光客にとって、このTシャツが“この人は英語ができる”とすぐに分かるシステムになれば、個人レベルでの国際交流が促進されるきっかけになるかもしれない。その実験をしたいから協力してほしい」と持ちかけられました。非常に面白いと思いましたね。

 

当初、実験は3回までというお話だったので、3回目まではOBさんが中心的に関わってくれていました。その後も協力いただきながら、私たちの方が面白くなってそのまま続けて活動しています。だから、いまだに実験・検証しているんです、個人レベルの国際交流について。

 

―― 活動をそのまま続けようと決断した理由はなんでしょうか?

 

活動をしてみて実感しましたが、この活動は「困っている外国の人たちを助ける」という目的の他に、コミュニケーションの場として、とても意味があります。こちらから話しかけ、ちょっとした会話を楽しみ、別れる前に一緒に記念撮影をする。ときにはSNSでつながり、その後も交流が続く、なんてこともあります。

 

もし、僕たちが海外旅行をして、同じように現地の人と気軽に会話ができ、写真撮影などしたら、その旅行をいつも以上に楽しいと思うでしょう。その出会いは互いにとって貴重だと思います。こうした理由が強いですね。

「おもてなしの精神」が反映。声かけの勇気が湧くTシャツの力

―― 「おもてなしTシャツ」のデザインなどはどのように決まったのですか?

 

そもそも外国人観光客にすぐに理解してもらえることを目的としています。ですから、目立つこと、そして日常でも着られるようにデザイン性があり、おしゃれであることが特徴です。

 

―― 外国人観光客の反応はいかがでしょうか?

 

Tシャツには「Hosptali-Tee Project」の2人のキャラクター、忍者とお地蔵様がプリントされています。外国の人によく言われるのが、「ニンジャ、ニンジャ!」です(笑)。外国の人が日本を連想するとき、忍者は有名ですよね。これは本当に良い効果がありました。

 

また、ある女子学生の体験では、外国人の男性が遠く離れたところからじっとこちらを見ていると思ったら、近づいてきて「このTシャツ、可愛いね!」と話しかけてきたそうです。その学生にとって、初めて参加した回で、初めて会話した相手だったそうです。この体験で、緊張が随分と和らいだと話していました。

 

―― 田中教授が活動を通して実感するTシャツの力とはどのようなところでしょう?

 

このTシャツは僕たちのユニフォームです。「これを着るからには、声をかけよう!会話を楽しもう!」というような積極的な気持ちになりますよね。それは僕だけでなく、参加している学生にも共通していると思います。

 

このTシャツには「おもてなしの精神」が反映されています。1人で歩いているときに困っている人に声をかけるのは、日本人同士だって勇気がいることです。ましてや外国の人には声をかけにくい。そうした気持ちを吹き飛ばし、相手の立場に立って行動できるのは、このTシャツの力だと思います。

Tシャツを着て“何かのついでに国際交流”。日常生活に溶け込ませたい

―― 最後に「Hosptali-Tee Project」の今後の目標を教えてください。

 

この活動の最終的な目標は、多くの人が気軽にこのTシャツを着て、それぞれがそれぞれの場所で国際交流をしていくことです。「ちょっと街中に出るし、時間があるからTシャツを着てみよう」「Tシャツを着ているから外国の人に話しかけやすいし、会話してみよう」などと日常生活の中に溶け込ませてもらえたら嬉しいですね。何かしに行ったついでに外国人観光客を助ける、そんなスタンスができればと願っています。

 

それが、私たち一人ひとりができる国際交流で、日本人の意識がもっと変わっていけば、本当の意味での観光立国になるでしょうし、日本人の「おもてなしの精神」も良い方向に発揮されると考えています。

Tシャツを着ることが国際交流の始まり。海外や他国への関心に結びつく

「肩肘張らない国際交流」という言葉がぴったりな「Hosptali-Tee Project」の活動は、「やらないといけない」とか「国際交流とはこうあるべき」というような難しい印象は全くありません。参加している人たちが心から楽しみ、外国の人と交流することに喜びを見出していることが伝わってきました。そして、その喜びや楽しさは、学生さんの勉強意欲の源泉となり、さらには海外や他国への関心に結びついているのです。

 

田中教授をはじめ、学生さんの瞳がキラキラしていたことがこの活動の価値を物語っていると言えるのではないでしょうか。今後の活動展開が、ますます楽しみです。

 

Interviewer&Writer:佐藤美の

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【取材協力】田中俊弘さん

麗澤大学外国語学部外国語学科・大学院言語教育研究科教授

専門はカナダ研究(歴史)。日本カナダ学会理事(2014年度から副会長)、カナダのアルバータ大学の客員研究員(2010—2011)など歴任。カナダ政府カナダ首相出版賞受賞(翻訳部門)など、カナダ研究・英語教育において第一線で活躍。2014年より「Hosptali-Tee Project」の中心人物として麗澤大学の学生と活動を続け、民間レベルの国際交流の研究・検証を続けている。大学の教育の在り方、教育者の在り方に重きを置き、在学生から卒業生まで息の長い交流を続け学生の信頼が厚い先生。